プロフィール
メリー
メリー
O-teamうっかり担当
ちゃっかりでうっかり。
時にしっかり

メリーの由来は
ひつじ年で牡羊座から
動物占いはおおかみ
アクセスカウンタ
読者登録
メールアドレスを入力して登録する事で、このブログの新着エントリーをメールでお届けいたします。解除は→こちら
現在の読者数 1人
< 2024年03月 >
S M T W T F S
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            
オーナーへメッセージ
「ブーログ」トップへ
「ブーログ」管理画面にログイン
「ブーログ」新規ブログ開設 (無料)

QRコード
QRCODE
新規投稿

新規投稿するにはログインする必要があります。会員IDをお持ちでない方はIDを取得された後に投稿できるようになります。

2009年07月18日

【創作】向かいの窓

※この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありません

---------------------------------------------------------------

  あつい……。

 梅雨があけてからというもの、毎日、死にそうに暑い日が続いている。
 どうして俺はこんな時間に外に居るんだ・・・。
 
 そう思いながらまだ長いタバコの火をもみ消す。
 少し吸えば十分…のわりに禁煙計画が一向に進まないのは
俺に危機感がないからか…仕事場のせいもあるかもしれない。
 ボトル型の灰皿に蓋をして、エアコンの室外機の上に置いた。
 仕事場じゃ吸わないとコミュニケーションし辛いし、珈琲を飲んで休憩するにも
自分の席では息が詰まる。
 毎日あしげくタバコ部屋に通うようになるってものだ。

 サッシをあけて部屋に入る。
 部屋の中はエアコンが効いていて、まるで別世界のようだ。
 家じゃタバコを吸うことで自分の肩身を狭くしている。
 これまた仕事場とは別世界のようだ。

 洗面所に行って、口をゆすぐ。
 そのまま液状歯磨きを口に含んでまた口をゆすぐ。
 
 べぇ、と口の中身を垂れ流していると、玄関先から大声で呼ばわる声が聞こえる。
 
 我ながらよくこの女性と結婚できたもんだ。と思う。
 


「スイカ貰ったから。冷蔵庫とお風呂場に運んで。」
 と言いながら玄関の扉を開け放つ。
 部屋の冷気が逃げる。

 つまり車から運ぶのも俺の仕事か。
 というか何個貰ってきたんだ、とツッコミを入れたくなる。

 
 合計三個。
 実家が近いせいかちょくちょく寄り道をしてはなにかを貰ってくる妻は
頼もしくもあり、ときおり面倒でもあった。

「こんなにどうすんだよ。」
 部屋のクーラーが全開にかけられている。
 俺はもう一枚シャツを羽織りなおした。
 二人の間にある、どうしても越えられない体感温度の壁…ってやつだ。

 一つは冷蔵庫。一つは水を張った風呂場。
 残りの一つは今半分に切っている。
「これは半分今日食べて、もう半分はおすそ分けでもすればいいでしょ。」
「これが今日食うぶんなら、風呂に浸してあるのはどうするんだよ? スイカ風呂はあんまり気が進まないんだけど。」
「あら、おじいちゃんはスイカ風呂は体にいいって」
 ウソつけ。
 わが妻ながら時折、本当にどうでもいいウソをつくもんだ、と思う。
 ウソでなくても大概俺の4倍は口が回る。
 結婚して一年目には、俺は街宣車と結婚したのかと考え込みもしたが、
 自分が話す量は他の相手に比べてずっと少なくても良いことに気がつくと、
意外と居心地が良いということがわかった。
 できれば俺の、間違えて結婚式用の真っ白なネクタイをして会社に行ったという
半年も前のネタを周りじゅうに触れて回るのはそろそろカンベンして欲しいところだが…。



「たかしは?」
 結局俺はスイカにかぶりついている。
 塩を振る派と振らない派が居るようだが、俺は断然振る派だ。
 スイカは野菜だと信じている。
『スイカが果物だ』というのは単価を上げるためのスイカ売りの罠だと思っている。
 バレンタインと同じだ。

「おじいちゃんちに泊まりたいって。 まぁ、二人も喜んでるみたいだしいいんじゃないの。」
 まぁ、正直ホっとした。
 まだこれから長い長い夏休みを一緒に過ごすことになる息子に対して
居なくてホっとするというのは問題かもしれないが、まぁ正直な感想だった。
 夏休み中で、俺が平日休みの時なんかは大概面倒を見ることになる。
 最初のうちこそ楽しく遊んでいるが、どうにも息子と親とではエネルギー効率が違うらしく、
だんだんと体力的にキツくなってくる。
 そしてキツくなって来た頃合に限って、突然出先でぱたりと寝付き、
最終的に一番重たい荷物になるのだ。 
 きっと、今年はまた一層重たい荷物になっているに違いないのだ。

 今年の夏はたかしと一緒にダイエットをしよう。
 スイカの種を放りながら考えていた。
 
 大概、思っただけでやったつもりになる、つもりダイエットなのだが。

「同じクラスのあっくんのおうちと、一緒にバーベキューに行こうって話覚えてる?
 あれ、8日になったから。」
「あぁ…。うん。」
 息子と仲が良い友達の親とは仲良くするもんだ。
 たとえそれが苦手な分野だったとしても。
 正直一度も会ったことも話したことも無いような相手と
「仲良くしなきゃいけない」という義務つきで顔をあわせなきゃいけない、なんて
考えるだけで面倒くさくなる所だったが、ここは子供のためだから仕方ない、と考えていた。
 


「それじゃ、私は行ってくるね。」
 妻は結局、風呂場にあったスイカを一個持って市外まで旅立つことになった。
 電話をして、有効活用してくれそうな友達を見つけたんだとニコニコとしていた。

 市外まで出かけるほどのことか?と思いはしたけれども、
ついでに大家族を持った友達と久しぶりに合って話も出来るし、とかいう
どっちが本題だかわからないようなことを言っていたので、止めはしないことにした。

 扉が閉まって、途端に部屋が静かになる。
 ゲームでも進めておくかな。
 夏休みに入ったたかしにずいぶん差をつけられているかもしれない。
 
 そんなことを思いつつ、またタバコをくわえてベランダへと出て行った。

 
 夕飯どきにはまだ間があるが、それでも最近できたマンションのおかげで既に日は当たらない。
 西日が当たらなくなったのは良いことだ。俺はマンションを建てた業者に心から感謝した。
 
 
 比較的過ごしやすくなったベランダでタバコをくゆらせていると、
向かいのアパートの部屋の窓がまた開いていて、中が見えているのに気がついた。

 あの部屋は時々、夫婦喧嘩をしているのが見える。
 普段は仲が良いようなのだが、喧嘩を始めるとヒートするタイプの夫婦らしく
声が聞こえてきそうな臨場感の光景がここからでも見える。

 つい一昨日の夜もなにやらやってたような気がする。

 もちろん俺だって覗きが趣味というわけじゃないし、
不審者にはなりたくないから、こうしてベランダのてすりに肘をついて
横目に確認するくらいしかしないが…。
 流石に・・・・・・あれだけハデにやっていれば気になる。

 今日は…何をしているのか。
 あれだけ窓が全開なんだからまぁ多少見ても差し支えないだろう…。
 自分に都合の良い解釈をしながらまた横目に視線を向けると、
奥さんが踏み台に登ってロフトの手すりにロープをくくりつけている。

 あのロフトはうちにもあるが、こんな家庭向けのアパートにロフトなんか着いていても
子供が登っても危ないばっかりで、最終的には物置になるんだよな…。
 まぁ、気に入ってこのアパートに決めたのは俺のほうが。

 それはさておき、なにやら珍しい光景につい顔を向けてちゃんと確認してしまう。

 彼女はそのロープに自分でぶら下がり、
ロフトの手すりが折れないこと、しっかり結べていること、
それからロープが頑丈であることを確認する。

 ひとしきり、確認を終えると、今度はロープの先を持って、輪を作り始める。
 縛って、うまくいかないのかまた解いては縛りなおし・・・それを繰り返している。

 
 これは、アレか。
 輪になった紐。ロフトからぶら下げる…。踏み台…。ときたら
 
 そこから首をくくってぶら下がるアレか…。
 
 タバコの灰がフィルターの直前まで灰になって足元に落ちた。
 

 いやいやいやいやいや
 
 これは、まずいだろう!
 俺は慌てて部屋に戻って、そのまま玄関先へと走り出していた。












 
 あつい……。
 
 扉をあけて外に出ると、俺は1号棟へと向かった。
 俺が住んでいる棟が2号棟、
今見たあの部屋は1号棟のはずだ。

 ほんの短い距離なのに、走っていると汗が出てきた。
 当たり前だ、この暑さ…まだ日も登っているし、
アスファルトだって十分に温まって下からも熱気が来ているのがすぐにわかる。


 やっぱりダイエットしよう。


 アパートの扉の前で足を止めた時、
走っているとき以上に暑さが増して汗が汗腺から一気にふきだしている感触がわかった。
 
 ピンポーン

 呼び鈴を鳴らす。

 返答が無い。

 ピンポーン

 しまった。携帯電話を持って来るべきだった。
 このまま出なかったらまた部屋に戻って警察に電話かけたりするのか?俺…。

 扉の前で一人焦っていると、
ガチャリ、とドアノブがまわり、少しだけ扉が開いた。
 インターホンじゃなくて扉をあけるのは無用心極まりない。注意が必要だが
ここはそれよりも今やろうとしていることをやめさせるほうが先だ。

 俺はそのドアに手をかけて一気に開いた。

 ドアにはチェーンもかかっていなかったらしく、本当に一気に開いてしまった。
 そして中にはその家の奥さんが
「えっ、…ひゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 ボグゥ!
 なにかにはじかれて仰け反った。
 顔に真正面からなにやら柔らかなものが力いっぱいぶつかってきたような、
そんな脳みそシェイキーな感覚。
 あぁ、フットサルのボールが力いっぱい当たったときこんな感覚だったか…。
ふらふらとよろけながら我に返ってその相手と部屋の中へと視線を向ける。

「警察呼びますよ!!」
 
 Tシャツの上からワンピースをかぶった奥さんの手には
真っ赤でまん丸で大きな、ボクシング用のグローブが装着されていた。

 あ……ひょっとして…。


 奥に見える部屋の中にぶら下がっているのは、
 首吊り死体、ではなく敷布団をロールケーキ風に仕立てた、お手製サンドバッグだった。


「あ……。あぁ。 えっと…部屋を間違えました。すみません。」

 何度も何度も頭を下げて、
 大きな音を立てて扉を閉められながら俺は大急ぎで部屋へと戻っていった。
 時折、見られて居ないかと後ろを振り返りながら帰った。

 結局ドアを開ける無用心さについては注意することは出来なかった。


 



 嫌な汗をかいた。
 部屋に戻って牛乳を飲んで一息をつく。
 それからうがいをして、液状ハミガキで口をゆすいで、
やっと落ち着いたところでソファーに寝転がる。

 俺は、あのまま見ていたほうが良かったのだろうか。
 それとも、最初からいろんなことに係わり合いにならないように、
見ていなかったほうが良かったのだろうか。
 家族は、こんな所を見たらなんと言うだろうか。
 罵られたり叱られたりもするのだろうか…。
 呆れてバカにされるのだろうか…。
 考えているつもりが、そのままウトウトとしていると、また玄関から呼ばわる声が。


「ついでにあっくんのおかあさんにもスイカ届けてきたら。かわりにカボチャを貰っちゃってー。」
 と言いながら玄関の扉を開け放つ。
 部屋の冷気が逃げる。

 つまり車から運ぶのも俺の仕事か。
 そう思いつつまた車のほうまで降りていく。
 
 呑気な声に、自分の中で自分自身に『不審者』のレッテルを貼った俺の気持ちも少しだけ救われる気がした。



 俺が両手に一つずつのカボチャを抱えて運んでいると

「そうそう、あっくんのおかあさんがね、
 なんか今日不審な人に玄関開けられたーって言ってたんだけど、
 うちにはなんか変な人来なかった?」

 …はぁ。
 まぁ、いや、それはまぎれもない俺ですよ。
 そう思いながら引きつった笑いを浮かべる。

「パンチしたら謝りながら逃げていったって笑いながら話してたけど……。」

 ……はぁ。

 ため息が出てきた。


「あのさ、あとでカボチャのお礼を持ってあっくんの家に行こうか…。バーベキューの前に挨拶もかねて。」
「えー ……スイカのお礼でカボチャ貰ったのに……。」

「実はな、同僚の平田がこの近くに越してきたって話があってだな…。そいつを今日見かけたような気がして……」

 俺は珍しく頭をフル回転させて状況を「説明」していた。
 この際、新しい笑い話の種を投下するくらいは覚悟のうえだったが、
この時ばかりは流石に、相方のこの軽い口に感謝していた。
 何も知らないで顔をあわせていたら…そう思うとぞっとした。

「えー。それじゃ、ケーキ買って持って行かないと。
 それにしてもボクシング? やるねー。」

 けらけらと笑いながら頷く。
 そしてはやばやと車に乗り込んだ。
 
 早く乗りなよ?と言わんばかりの屈託の無い様子だった。
 たぶん、このトラブルもまた心底楽しいものだと受け止めて
なおかつ、相手もきっと面白おかしく受け止めてくれるに違いない、と心底思っているのだろう。

 我ながらよくこんな女性と結婚できたもんだ。と思う。
 恥ずかしくもあり、不信人物そのものである俺の、大失敗話を楽しそうに聞く妻は
頼もしくもあり、ごくたまに可愛く思えた。



 俺は、今年の夏こそは禁煙することができそうな、そんな予感がなぜかしていた。




同じカテゴリー(創作)の記事
 お通し(MとY風) (2011-11-15 00:29)
 【創作】雨降って (2009-05-25 21:21)
 【創作】カレーの皿 (2009-04-29 18:55)
Posted by メリー at 23:46│Comments(2)創作
この記事へのコメント
こんばんは、“隊長”です。

読んでて、不覚にもドキドキしちゃいました・・・。

“メリー”さんのショートショートな小説の
「ぜい肉的な、肉付け」のファンです。

マンガしか読んでないから、9割セリフでの説明になっちゃう私とは大違いです。

“メリー”さんを参考や目標にしても、ムリすぎるので、自分の出来るスタイルでガンバってみたいと思っている今日この頃でした。

では、また。(^0^)/~~ バイバイ
Posted by 草野球チーム・自営隊 “隊長” at 2009年07月20日 01:07
>隊長さん
贅肉たっぷりで色々ごまかすのがモットーです!(・∀・)

やっぱ自分のスタイルに合った書き方があるものと思います。

隊長サンのブログも(お仕事のほうも)
いつも拝見させていただいてます。

おひつじ座の誕生石はまだですか?(こら
Posted by メリーメリー at 2009年07月25日 12:09
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。
削除
【創作】向かいの窓
    コメント(2)