出発

ようやく出張先を離れる時が来た。

私は午後のちょっとした仕事を珍しく手早く片付けると、
十分に余裕を持ってバス乗り場へ向かった。

早く来過ぎたか、と不安になったが、実際には私よりもさらに早く乗り場に立っている人間が二人もいて、
ちゃんと仕事してるのだろうか、と勘ぐりたくなる。

いや、これはこれで問題ないはずだ。

予約制の社内バスで乗り過ごしたりすれば後がタイヘンだ。

渋滞に備えてサービスエリアでアンパンを買うのが社会人として適切なリスクマネジメントなら、バス停に二十分前に行っておくのもリスクマネジメントに違いない。

良い具合に自己肯定を済ませつつ、そこにつったった二人の後に付く。


じりじり

暑い。

背中から照りつける西日がやけに暑苦しい。
二歩か三歩も後ろへ下がれば日陰に入ることができるのに、何で律儀にバス停の真横にこだわるのか、
一番前の人間が二歩も下がれば残りの人間が割り込んだりはしないだろう。
もしくは一声かけて、みんなで「せーの」で下がってもいい。

何が悲しくてこんな我慢比べみたいな真似をしなくちゃいけないのか。
ひとにぎりの勇気。
なぜそれが持てないのか。
そんなことを思いつつ、
内気で無口で恥ずかしがり屋の私が何も言いだせないうちに、続々と他の乗客たちがやってくる。

私は無駄なことを考えるのはやめて、
これから来るバスのどこに座るべきか、という重大事項に考えを移した。

前か、
後ろか
それとも中程か

バスが到着する。
先に入っていった二人は、前と後ろに別れていった。
自分はというと、まだ結論が出ていない。
しまった、バスのなかでうろうろ席を迷うなんてこの年でするわけにはいかない。

慌てて出した結論は最後尾。
ここなら何をしているか、が他の人に見える心配もない。

私はゆったりと一番後ろの席に座った